今のところ書店員の日記

書きおこしてみたい、考えたこと思ったこと

2作目

いい加減、感想を書くことにしました

どう頑張ってもネタバレなしには書けなかったけれど

ものすごく長くなってしまったけれど

 

 

「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」

若林正恭著  KADOKAWA

 

発売されると知ったのは発売日の1週間前で、7月14日に同僚の手によって店頭に並べられ、その翌日に買いました

それから3日くらいかけてゆっくりと読んだ

 

彼の著書1作目である、社会人大学人見知り学部卒業見込みは、ある人から借りてそのまま手元にある(読み終えてはいる)

もう返すことはできなさそう

それを借りた人のところにはわたしの貸した紅の豚のDVDがあるので、まあおあいこということで

 

第1作目は彼の学生時代も含めたブレイク前の下積み的時代からM-1後の大ブレイク以降、ダヴィンチで連載を持ちそれが一冊の本となるまでのあらゆる出来事と心情の変化などが、彼独特のひねくれた斜めな、でもどこか共感せずにはいられないような視点と語り口調で綴られている

時期が時期なのでとてもがむしゃらに、社会、芸能界、周囲の人間、自分自身、あらゆるものと必死に戦っている彼の姿が浮かぶような作品

 

そんな1作目があったからか、今回の作品は始めこそ同じような、まだ葛藤の渦の中にいる雰囲気を漂わせていたけれど、日本を出てキューバについて語られるあたりからは、どことなく縛り付けられていたものから解放されたような気配を感じる文章だなあと思いました

 

はじまりは、日本で感じた資本主義と新自由主義への疑問、違和感で

その点については、とてもわかりやすく、彼がそれについて個人的に学んでいる東大院生の家庭教師から聞いて知っていくのと同じように、読者も理解できるよう噛み砕いて彼らしい文章で綴られていて、そのわかりやすさにちょっと感動しました

 

そこから夏休みを利用して、資本主義でない国=社会主義国家のキューバへと飛び立つ

言葉も文化もまったく違う見知らぬ土地に同行者なしで行くドキドキ感がとてもリアルです

 

現地では緊張しながらタクシーに乗りやっとの思いでホテルにつき、一眠りして目覚めた早朝にホテルの屋上からハバナの街並みを眺めるシーンはなんだかエモーショナルて、彼の感じたものが文章から淡く伝わってくるようで印象に残っています

 

翌日からは活動的にちょっと変わった現地人ガイドと共にゲバラカストロの跡を辿ったり、在キューバの日本人に街を案内してもらったり、現地人のツテで闘鶏を観戦したりと活動的

文中にもあるが、普段のテレビなどで見る「オードリー若林」のイメージとは遠う活発さと溌剌さのある雰囲気

現地人のガイドとのちょっと笑えるやりとりは芸人ならではの視点で綴られている

表題の「表参道の〜」はそのガイドともに訪れたカバーニャ要塞で見た野良犬からきていて、そこでも彼の感受性が垣間見える

また3日間の旅で社会主義に触れる中で、自分自身が資本主義国家の日本で知らず識らずのうちに選択の自由を得ていたことに気づき、読んでいるこちらもかなりはっとした

最終日はなんとひとりでビーチに出かけており、美しい砂浜と海にたどり着いたはいいが、散々な目にあったりしていることを彼らしいふてくされたような文章で綴っている

キューバでもやはり、オードリー若林は健在な様子

 

それから一度ホテルに戻ったあと、街に繰り出し歩きながら語られるキューバ旅のもうひとつの訳

そこから先はどうか実際に読んで欲しいです

簡単に言葉にはできなくて

でもとても人間らしく温かい話だと思います

彼がこんな風な文章を書くのは今だからだと思うし、読めてよかったと思います

 

 

昨日の夕方、ツイッターを開くとタイムラインに又吉直樹さんのツイートが流れてきて、この本のことを言っていました

 

わたしはやっぱり、この本は誰の心にもじんわりと温かく届く内容なんだなあと思いました